「課長。‥美沙課長、これお願いします。」
美沙に声を掛けてきたのは２３歳、入社２年目の和也である。
「あっ、和也君。ごめんなさい。はいっ」
そう言って、美沙は受け取った書類に印鑑を押して、部下である和也に渡した。
「どうしたんですか、珍しいですね。ぼっーとして、考え事ですか。」
「う‥、うん。ちょっと難しい仕事が入って‥」
「そうですか、僕に手伝えるような仕事ならいいんですけど‥」
「ありがとう。いいのよ。あなたは今すすめている仕事を片付けてちょうだい‥」
「はい。でも、ここのところ毎日遅いみたいなので、あまり無理しないで下さいね。」
そう言って、席を離れていった和也を見送りながら、美沙は溜息をついた。
‥本当は、仕事の事なんかじゃないのよ‥
美しく、おしとやかで、控えめな性格、そして細身の身体に似合わぬ大きな胸で
社内の男達の憧れの存在であった美沙。
その美沙も、今では３０歳になっていた。
もともと、美しいだけでなく、仕事の能力のあった美沙は
今では、和也の他に３名の男性社員と２名の女性社員を部下に抱える女性課長となっていた。
たしかに、仕事はここのところ毎日遅くまで残業となる程忙しい。
しかし、それはやり甲斐もある事で、それ程苦にはならない。
さっきの溜息の理由は‥
付き合い始めてから５年になる伸二と別れた事にあったのだ。

伸二とは同期であり、今は同じ課長職でもある。
社内でも、ともにエリートコースを歩む美男美女のカップルとして、皆からの羨望の的でもあった。
伸二と付き合うまでの美沙は、出臍というコンプレックスを抱えていたが、
「そんなこと、気にする事なんてない」という伸二のおかげで、
そのコンプレックスからも開放されたのだが、
実際、少し肉付きのよくなってきたせいで、最近ではその出臍もほとんど目立たないようになっていた。
このところ、二人とも仕事が忙しくなって、時の流れとともにすれ違いが生じはじめたのは事実だった。
それにしても、先日、伸二の方から別れ話を切り出された事は、美沙にとってはショックだった。　
何よりも、その理由が、伸二が自分の部下の２４歳のＯＬ亜矢と結婚するというのだから‥
伸二が部下と、そんな仲になっていた事すら、美沙は気づいていなかったのだ。
そんな目にあっても、自分の事よりも、人の事を第一に気遣ってしまう美沙の性格から
「結婚するの‥おめでとう。今までありがとう‥お幸せに‥。」
と、押し寄せる寂しさと悲しみを心の中に抑えて、伸二からの別れ話を受け止めたのだ。
そう言って伸二と別れたものの、さすがにその夜は涙が止まらなかった。
あらためて５年という伸二とすごした月日の重さに気づかされたのだ。

亜矢は、若い頃の美沙に負けない位にスタイルがよく、男性社員達からも人気があった。
美沙も、もちろん今でも充分にスタイルもよく美しいのだが‥
当時と変わった事といえば、眼がねをかけるようになった事と、昔よりも少し肉付きがよくなった事、
そして、純粋無垢だった当時と比べればそれなりにいろいろな経験も重ねてきたという事だろうか‥。
今も皆の羨望の的である大きな胸は健在で、３０を過ぎた今は、より肉感的にさらに大きくなったようだ。
しかし、美沙にとっては、その大きな乳房が今では新たなコンプレックスとなっている‥。
その大きさゆえに若い頃に比べて‥そう‥明らかに垂れてきたのだ。
伸二とベッドをともにした時なども
「相変わらず美沙の胸はでかいな。‥でもここのところかなり垂れてきたんじゃないか‥よいしょ‥」
などとふざけて、下から重そうに持ち上げる仕草で、からかわれるような事もあった。
誰よりも、その事を実感していたのは美沙本人であった。
最近では特に顕著に感じられるようになった。
大きな乳房を支えているブラジャーをはずすと、かなり下の方にまで、その大きな膨らみは垂れ下がるのだ。
おへそコンプレックスから開放された美沙にとっての、新たな悩みはそのおっぱいコンプレックスだった。
あの時の‥かなり垂れてきたんじゃないか‥という伸二の言葉が耳から離れない。
２４歳の亜矢の若さにはかなわない。
伸二は、亜矢のはちきれんばかりの若さに惚れたのだ‥、そんな風にまで考えてしまう。
伸二と別れる事になって、美沙のおっぱいコンプレックスはよけいに激しくなったのだった‥‥